減感作療法(げんかんさりょうほう)



 アレルギー性鼻炎(びえん)、アレルギー性結膜炎(けつまくえん)などのいわゆる花粉症(かふんしょう)、気管支喘息(きかんしぜんそく)、蕁麻疹(じんましん)、アトピー性皮膚炎(ひふえん)などを総称してアレルギー性疾患と呼びます。これらの病気の発症メカニズムに共通していることは、アレルゲン(病気の原因となっている抗原:ダニ、スギなど)と呼ばれるアレルギーを引き起こす物質の関与です。

 通常これらの病気の治療にあたっては薬物治療が行われます。局所的あるいは全身的に、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、ステロイドホルモン剤を花粉症、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎の患者さんへ投与し、気管支喘息の患者さんにはさらに気管支拡張剤や吸入ステロイド剤を投与して治療をしています。このような治療方法は比較的容易で、ある程度の効果が期待できますから「対症療法」として確立されいます。完治は望まないが、とりあえず症状を和らげるには良い治療方法です。

 しかし遺伝性疾患でもあるアレルギー性疾患は、理論的にこれらの薬剤のみでは完治できません。基本的にはマスクやゴーグルあるいは空調や掃除機でアレルゲンを完全に回避できればいいのですが、これは言うは易く行うは難し。現在「原因療法」として可能性のある治療は、「減感作療法」のみです。私たちのアレルギー専門外来で治療を受けていただくときにはアレルゲンを皮内に注射して皮膚反応を調べ、必要に応じて血液検査(RAST、IgEなど)を行います。このようにしてアレルゲンが決定したことを確認した上で、アレルゲン特異的減感作療法で治療を開始します。

 実際には、治療用のアレルゲンエキスを非常に薄い濃度で皮内に少量(0.02ml〜)から注射し始め、慎重に投与量を0.5mlまで増やしていきます。(具体的には0.02ml→0.03ml→0.05ml→0.07ml→0.1ml→0.15ml→0.2ml→0.3ml→0.5mlという感じです。1段階に9ステップありますね。)

 1回に投与するアレルゲンエキス量が0.5mlに達すると、アレルゲンの濃度をさらに10倍にし、先ほどと同様に投与量を徐々に増やしていきます。アレルゲンエキスの濃度は経験的に数段階[3〜5段階]を設定しています。これを単純に掛け算すると・・・9ステップ×[3〜5段階]27〜45回の通院で維持量に達する計算になります。

 だから根気よく行う治療方法といえます。選択したアレルゲンエキスにより治療完了の最終濃度は異なります。ハウスダストで10倍希釈溶液×0.5ml、スギで2000JAU×0.5ml程度を、安全に投与できるように治療計画を立てます。前述の投与量はあくまでも目標値であり、各自の病態により投与量は治療計画の目標に達さないこともしばしばあります。また不用意に高用量のアレルゲンエキスを投与すると、猛烈なアレルギー反応を誘発し、重篤な副作用として蕁麻疹や喘息発作を起こすことも考えられますから、アレルゲンエキスの投与計画はこの治療方法に熟練した医師のみが決定するべきことでしょう。

 アレルゲンエキスの増量は週2回目標で注射していきます。(これはあくまでも目標であり、1ヶ月に1回しか注射できなくても、なんら問題はありません。ただ、維持濃度に達するのに、時間がかかるだけです。実際に週に2回通院されている方は、実は多くはありません。)最終目標の維持濃度・投与量に達したら注射の間隔を週1回にします。さらにそこから、次第に間隔をあけていって月に1回になったところで2年間続けます。アレルゲンエキスは2ヶ月に1回の投与でも減感作療法の維持は可能です。しかし、実際にこれを試してみると、間隔を空けると痛みが強くなるので、少なくとも1月に1回は注射をしておいたほうが楽です。こんなのんびりした治療方法ですから、全体を通して考えてみると約3年間ぐらいの治療期間がかかります。

 手間のかかる治療ですが、花粉症や気管支喘息の根治を期待するならば、現時点ではこの方法をお勧めします。さらにヒスタグロビンなどの非特異的減感作療法を併用して肥満細胞の細胞膜の安定化をはかり、ヒスタミン遊離を抑える治療方法を併用することで治癒率上昇を期待します。もちろん特異的減感作療法も非特異的減感作療法も健康保険の適応ですから、治療費用は一日あたり1000円前後と安価です。尚、最近読者からご質問があったのでどうしても追加しておきたいことがひとつあります。巷で有名な花粉症一発注射療法(ケナコルト・デポメドロール)に厳重に注意しましょう。減感作療法とはまったく異なる悪質なアトピービジネスのひとつです。

 今後もアレルゲンエキスは次第に改良され、治療期間が短縮された方法も昭和大学第一内科では研究されてきていますので、いずれはその進歩をご紹介できる日が来ると思います。ここでは細かく触れませんが、アレルギー性疾患に対する安易なステロイド治療が多くの臨床的問題を引き起こしていることは、懸命な読者ならご存知かと思います。減感作療法はステロイドを減量するにも大変有効です。また、すべての病気に共通して言えることですがストレス発散をはかり精神的に安定することもアレルギー性疾患の治療において大変重要です。私どもは、通院が皆さんのストレスにならない工夫をいつも考えています。最後までお付き合いくださってありがとうございました。

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