鼻アレルギー(花粉症、アレルギー性鼻炎)


鼻アレルギーとは発作的に繰り返す「くしゃみ」、「鼻水」、「鼻詰まり」の三つの症状を特徴とします。時に鼻がむずがゆく、眼球が痒く、嗅覚を失ったりすることもあります。このような症状が一年を通じて出現する人もいれば、ある季節のみに集中して現れることもあります。通年型のアレルギーの代表はダニで、ハウスダストの中にはダニがいっぱ潜んでいます。一方、季節性アレルギーの代表としてスギ花粉症が上げられます。これは2月から3月にかけて猛威を振るいますね。

 この病気の症状はさまざまで、上に述べた症状がすべて揃っていない人もいます。さらに、一日の中でも朝だけ症状が強い方がいらっしゃいますし、通年型の方でも季節変動が認められます。このためご本人は風邪と誤解されているケースも少なくありません。

 鼻アレルギーは喘息と同じアレルギー性疾患のひとつです。だから、アレルギー性の結膜炎や喘息を併発することはよくあります。

 アレルギーは慢性に経過する疾患で、さまざまな環境の影響を受けています。したがって、病気の原因の追求、誘因の検索、治療と並び自己管理も大変重要です。

 この他に鼻アレルギーと同じような鼻の過敏症状を示す疾患に「血管運動性鼻炎」があります。これは原因物質が特定できず、血液検査や皮膚反応を行ってもアレルゲンを検索することが難しい疾患群で、温度変化、機械的刺激、精神的因子などにより誘発されます。鼻の自律神経失調症としか表現できない病態ですので、鼻アレルギーとの鑑別に悩むこともあります。

発作のおきるしくみ
 ある特定の物質に過敏反応を示すことを「アレルギー」と呼びます。この原因になる物質を「アレルゲン」といいます。このアレルギーは遺伝的素因が関係しており、誰にでも起きるわけではありません。

 アレルギー体質の人はアレルゲンに接しているとこれに対する抗体という物質(たんぱく質)を体内に作ってしますのです。この抗体は、アレルギーを直接引き起こすヒスタミンなどの化学物質を大量に含んでいる肥満細胞(マスト細胞)にくっつき、体内のいたるところに存在しています。アレルゲンと抗体は、個人によりその反応を起こす相手があらかじめ決まっていて、再びアレルゲンが体内に侵入したときに、アレルゲンは抗体と結合します。この抗原抗体反応と呼ばれている反応は「鍵と鍵穴」の関係に例えられるほど厳格なものです。スギの抗体□はスギ■としか結合しませんし、ダニの抗体△はダニ▲としか結合しません。

 とにかく鍵穴(抗体)にピタリ収まる鍵(アレルゲン)が入ると、抗原抗体反応が起きて、肥満細胞にその信号が連絡され、肥満細胞の細胞膜が破れてヒスタミンなどのアレルギー症状を起こす化学物質が大量にばら撒かれるのです。
このヒスタミンなどの化学物質は周囲の神経や血管を刺激して炎症を局所的に起こします。
 
 このようなアレルギー反応がどこに起きるかで臨床症状はさまざまに変わります。鼻なら鼻アレルギー、眼なら眼アレルギー、気管支なら喘息、皮膚に起きれば蕁麻疹です。さらに自律神経失調や、心理的圧迫感、風邪など体調が整っていない状況では、病変局所がさらに過敏になっていますのでアレルギー症状が悪化します。

鼻アレルギーの原因(アレルゲン)となるもの
  鼻は呼吸の通り道ですから、空気中に浮遊しているすべてのものが原因となりえます。代表的なものとして、ハウスダスト(家の中のホコリニ潜むダニの死骸や糞)、スギ、ブタクサ、カビの胞子、動物の体毛やフケがそうでしょう。鼻アレルギーの中で植物の花粉を原因とするもの花粉症と総称します。花粉が撒き散らされる季節は、春からスギ、ヒノキ、初夏にはイネ科のカモガヤ、夏から秋にかけてキク科のブタクサなどが有名でしょう。また、最近は排気ガスなどの悪影響も加わり、複数の花粉に対してアレルギーを起こすので通年型の過敏症を起こすかたも多くなってきました。その他、特に小児では薬物や食品が原因で過敏症がおさまらないケースも増加しています。

生活環境整備
  根治療法として単純かつ理論的なことはアレルゲンに遭遇しないことです。そのために生活環境を整備しましょう。アレルゲンを避ければ、過敏反応はおきないことはすでに学習しましたね。
 ダニやカビが原因の場合には清掃に力点をおきましょう。最近は年末の大掃除さえしない御家が多いですね。高温多湿のモンスーン気候が特徴のわが国では、放置すればダニ天国。清掃しやすいシンプルな家作りと除湿、日光の利用などでダニを極力繁殖させない努力をしましょう。

 花粉の場合には積極的生活環境整備はありません。花粉のシーズンには外出を控え、マスク、ゴーグルを使用し、やむを得ぬ外出後には洗顔、うがいをきっちりしておくぐらいでしょう。生活の質が落ちることは覚悟です。(だから体質の改善が必要なのですが、これは後述します。)
 ペットが原因の場合には、ペットを手放すしか方法はありません。動物愛護協会から叱られるのを覚悟で対策を述べるなら、このようにお話するしかありません。ペットをとるのか、自己の健康管理を優先するかということです。アレルギー性の病気をお持ちの方の家族もよく考慮してほしい重要な問題点です。また、 食物が原因なら、その食物は摂りこまないようにしてください。

 アレルゲンを体内に入れないことが、アレルギーの治療では理論的に単純かつ重要です。この対策が100%実施できればアレルギーは起きません。しかし、実際にはこのような対応をすることに不可抗力と考えられる状況が多いので、対症療法として薬物療法が行われます。対症療法は薬物の投与終了と同時にその療法の効果は消失します。治癒の望めないその場しのぎの治療の仕方です。 

 先に述べたようにアレルギーを増悪させる因子として、物理的精神的環境因子が考えられます。生活のリズムを整え、温湿度を調整し、ストレスを発散、適度な運動、禁煙、禁酒などストイックな生活態度もアレルギー状態からの脱出には有効です。

 このように、絵に描いた餅のような治療方法を述べたところで仕方が無いことは筆者も十分承知です。生活環境整備ほど実行の難しいものは無いからです。

対症療法(現在の症状を緩和する治療)
 だからお医者さんで皆さん、お薬をいただくわけですね。1)抗ヒスタミン剤2)抗アレルギー剤3)副腎皮質ホルモン剤4)漢方薬5)血管収縮剤(点鼻薬)などは鼻アレルギーの治療として大変有名です。このような薬を使用している間は症状は改善しますが、あくまでも対症療法に過ぎないことは、だれもが承知。私もこの系統の薬を毎日処方していますが、病気の原因がもとから絶たれていない限り、過敏症再発は火を見るよりも明らかですね。


減感作療法(免疫異常調整による原因療法)

減感作療法とは免疫異常によるアレルギー体質を改善する根治的治療方法の一つです。特異的減感作療法と非特異的減感作療法に分類します。

 特異的減感作療法


 アレルゲンに対する抗体は人によりそれぞれ決まっています。この抗体が作られる現象を感作と呼びます。感作された状態から感作されない状態へ戻す治療を減感作療法と呼びます。特に、特定のアレルゲンエキスを少量から徐々にを皮膚に投与量を増やしていき、これを何度となく繰り返す事で免疫的に大量のアレルゲン暴露に対しても寛容できるような免疫状態への変調を与え、免疫的過敏状態を改善する方法を特異的減感作療法といいます。問診によりある程度可能性の有るアレルゲンを推定します。その推定されたアレルゲンを皮膚に注射したり(皮内反応)、針などで引っ掻いた皮膚にアレルゲンをたらす(スクラッチテスト)などしてアレルゲンを生体にチャレンジして調べる古典的な方法に加えて、最近では血液検査を利用して病因アレルゲンを決定するRAST法がしばしば行われるようになりました。

 通常毎週2回程度のアレルゲン注射を繰り返すと1-3ヶ月目くらいからアレルギー症状が緩和されてくるのを実感できるようになります。有効濃度と維持量に達しますと、1ヶ月に1回くらいのペースで治療を続け再発を予防します。治療の初期や症状の現れた時には対症療法剤の併用も行いますが、良くなってくればその必要はなくなります。この治療のメカニズムは次のように考えられています。

 減感作療法を行うと、特定アレルゲンと結合をしている特定抗体(IgE-RIST)に対して、生体内でIgG4という阻止抗体が出現し、これがアレルギー反応をブロックするので過敏反応が出なくなるのです。減感作療法の前後でこのIgG4を測定すれば、その増加を確かめる事が可能ですが、このIgG4の精密検査は研究室レベルの検査ということで、一般の健康保健ではその測定は認められていませんので通常は測定しません。減感作療法を継続することにより、アレルギーを阻止する抗体が生体内に自然発生してくることが医学的に証明されているのです。

 非特異的減感作療法

 この治療はアレルギー性疾患であることは明らかでも、症状を引き起こすアレルゲンを特定する事が出来ないケースや、比較的軽症のケースに行います。アレルギーの起きるメカニズムの中で肥満細胞の話が出てきた事を覚えていますか。非特異的減感作療法はこの細胞膜の破綻を抑え、ヒスタミンなどのケミカルメジエイターの放出を抑制します。アレルゲンの種類には関係なく、アレルギー現象の最終段階としてヒスタミンなどのケミカルメジエイターの放出は必ず起きますので、原因となるアレルゲンのわからない人や特異的減感作療法の補助として用いられ、有効な方法です。


  薬物としては1)ヒスタミン加人免疫グロブリン2)アストレメジン3)ノイロトロピンなどが代表でしょう。これらの薬剤の細かい説明はそれぞれの薬品の効能書きを参考としてください。

また、細菌と言えば感染症だけを思い浮かべる方も多いでしょうが、実際には細菌がアレルギーの原因物質となっているケースも知られています。その中の何がアレルゲンとなっているのかを見つけることは非常に困難なので、細菌がアレルゲンとなっていると考えた場合には種々の細菌の混在するワクチン、4)ブロンカズマベルナ5)パスパートを特異的減感作療法と同じように皮膚に投与して治療を行う事があります。これらの薬剤の細かい説明もそれぞれの薬品の効能書きを参考としてください。

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