睡眠時無呼吸症候群(SAS)

概要

睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に何度も呼吸が止まる、または浅くなる状態を特徴とする病気です。この状態が続くと、体内に十分な酸素が供給されなくなり、睡眠の質が著しく低下します。無呼吸の原因は、気道が物理的に閉塞する「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」と、脳が呼吸を制御する信号を正しく送れない「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)」に分けられます。

心疾患リスク

SASは多くの健康リスクを伴います。特に、心疾患との関連が強く、以下のようなリスクが高まることが知られています。

  • 高血圧: 無呼吸により酸素不足が生じると、体は血圧を上げて酸素供給を補おうとします。これが慢性的に続くと、高血圧が進行します。
  • 心房細動: 睡眠時無呼吸により胸腔内圧が変動し、心臓に対する機械的ストレスが増加します。これにより、心房の拡張や構造的な変化が引き起こされ、心房細動が発生しやすくなります。
  • 心筋梗塞: 酸素不足と血圧の上昇が心臓に負担をかけ、心筋梗塞のリスクを増加させます。
  • 脳卒中: 無呼吸が引き起こす酸素不足と血圧の変動は、脳卒中のリスクも高めます。

問診とスコアリング

睡眠時無呼吸症候群の診断には、問診とスコアリングが重要です。特に「エプワース眠気尺度(ESS: Epworth Sleepiness Scale)」がよく使用されます。ESSは、患者が日中に眠気を感じる頻度を評価するためのスコアリングシステムです。

エプワース眠気尺度(ESS)の質問項目:

  1. 座って読書をしている時
  2. テレビを見ている時
  3. 公共の場所で静かに座っている時(例:会議、劇場)
  4. 車に乗せてもらって1時間続けて座っている時
  5. 午後に横になって休んでいる時
  6. 座って話をしている時
  7. 昼食後に静かに座っている時(アルコールを飲まない場合)
  8. 車を運転中、信号待ちをしている時

これらの項目に対して、0(決して居眠りしない)から3(ほぼ居眠りする)までのスコアを付け、合計点が8点以上で眠気が強いと評価され、SASのリスクが高いとされます。

家族からの指摘や日中の眠気

SASは、自覚症状が乏しい場合が多く、家族や同居人からの指摘で気づくことがあります。特に、睡眠中の大きないびきや、呼吸が止まる様子を観察されることが多いです。また、日中の過度の眠気や集中力の低下も重要なサインです。

いびきの録音アプリ

いびきを録音する睡眠アプリを使用することで、SASの初期スクリーニングが可能です。これらのアプリは、スマートフォンを枕元に置いて使用し、睡眠中のいびきを録音・解析します。いびきの頻度や強度を評価することで、SASのリスクを推定できます。

簡易検査

簡易検査(自宅で行う睡眠検査)は、ポータブルな機器を使用して行います。通常、以下の項目をモニタリングします。

  • 酸素飽和度: 指に装着するパルスオキシメーターで測定。
  • 心拍数: 胸部に装着するセンサーで測定。
  • 気流: 鼻や口の前に装着するセンサーで測定。
  • 体位: 睡眠中の体の位置を記録するセンサーで測定。

簡易検査は、睡眠クリニックや医師の指示で自宅で行うことができ、初期のスクリーニングに用いられます。簡易検査でのAHI(無呼吸低呼吸指数)が40以上の場合、CPAP療法が直接適用されます。

ポリソムノグラフィー(PSG)検査

PSG検査は、睡眠時無呼吸症候群の診断において最も信頼性の高い検査方法です。病院で一晩入院して行い、以下の項目を詳細に記録します。

  • 脳波: 睡眠の深さやステージを評価。
  • 眼球運動: レム睡眠の有無を確認。
  • 筋電図: 筋肉の活動を記録。
  • 呼吸パターン: 鼻や口の気流を測定。
  • 酸素飽和度: 血中酸素濃度を測定。
  • 心電図: 心拍数やリズムを測定。
  • 脚の動き: 睡眠中の脚の動きを記録。

当院のPSG検査は在宅で行うことが可能です。病院でのPSG検査が難しい場合、自宅で専用の機器を使用して同様のデータを取得できます。

PSG検査に進む人の基準

PSG検査に進む基準は、簡易検査でのAHI(無呼吸低呼吸指数)が40未満の場合です。AHIが40未満でCPAP療法の適応が不確定な場合、詳細な評価のためにPSG検査が推奨されます。

診断

SASの診断は、PSG検査の結果に基づきます。1時間あたりに10秒以上の無呼吸または低呼吸が5回以上発生する場合、SASと診断されます。重症度は、無呼吸・低呼吸の回数によって以下のように分類されます。

  • 軽症: 5~15回/時間
  • 中等症: 15~30回/時間
  • 重症: 30回以上/時間

治療

治療法は、症状の重症度と原因により異なります。

  • 生活習慣の改善: 軽度の症状には、減量、禁煙、アルコール摂取の制限などが効果的です。
  • 口腔装置: 下顎を前に出す装置を装着し、気道を広げる方法。
  • 持続陽圧呼吸療法(CPAP): 睡眠中に一定の空気圧を気道に送り込み、気道の閉塞を防ぐ方法。中等症以上の患者に推奨されます。
  • 耳鼻科手術: 気道の物理的な閉塞が原因の場合、耳鼻科での手術が適応となる場合があります。咽頭や鼻腔の構造的な異常を修正することで、無呼吸の症状を改善できます。

CPAP療法(Continuous Positive Airway Pressure)

CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療において非常に効果的な方法です。SASは、睡眠中に呼吸が一時的に停止する状態を指し、健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。CPAP療法では、マスクを通じて一定の気圧を供給する装置を使用して、患者の気道を常に開放します。

  • マスクの選択: 患者の顔にフィットするマスクを選ぶことが重要です。主に以下のタイプがあります。
    • 鼻マスク: 鼻に装着するタイプ
    • フルフェイスマスク: 鼻と口を覆うタイプ
  • 圧力の設定: 医師の指導のもと、適切な圧力を設定します。個々の患者に合わせた圧力調整が必要です。圧力が高すぎると不快感を感じることがあるため、適切な設定が重要です。
  • 使用の習慣化: 毎晩の使用が推奨されます。初めは違和感を感じることがありますが、続けることで慣れていきます。

受診頻度と管理

CPAP療法を行う際、患者は定期的に医療機関を受診する必要があります。通常の受診頻度は最大でも2~3ヶ月ごととなります。これにより、治療の効果や機器の使用状況を適切に管理し、副作用やトラブルに対処することができます。定期受診が難しい場合は、遠隔モニタリングを行い、使用状況を確認して必要な指導を行います。この場合、2ヶ月分を限度として次回受診時に請求いたします。

CPAP導入の詳細

CPAP療法は以下の手順で行われます:

  1. 診断と装置の導入:
    • 簡易検査でAHIが40以上の場合、直接CPAP療法が保険適用となります。
    • AHIが40未満の場合、詳細な検査(PSG)を行い、治療の必要性を確認します。
  2. 装置のリース:
    • 下永谷内科・皮フ科では、医療機器メーカーからCPAP機器をリースして治療を行います。
    • CPAP機器のリース料は医療機関に請求され、下永谷内科・皮フ科は保険点数に基づいて患者さまと健康保険に請求を行います。
  3. 治療と管理:
    • CPAP治療の管理、副作用やトラブルへの対応を行いながら、CPAP機器を患者に貸し出します。
    • 定期的な受診により、機器の使用状況を確認し、必要な調整を行います。

注意事項:

  • 定期的に受診しない場合、医療機関はその月の請求ができず、CPAP機器のリース料を自費で請求することになります。
  • 定期受診が難しい場合は、遠隔モニタリングを行います。この場合、2ヶ月分を限度として次回受診時に請求いたします。
  • 3ヶ月以上受診できない場合、または他病院への入院などでCPAP療法が中断する場合は、必ず医療機関に連絡し治療を中止して下さい。

CPAP療法開始時には、上記の注意事項に関して同意書を記載する必要があります。

保険適用のAHI基準

日本では、CPAP療法の保険適用は無呼吸低呼吸指数(AHI)が20以上の場合に認められています。簡易検査でAHIが40以上の場合、CPAP療法が直接適用されます。

CPAP療法の費用

CPAP療法の費用は、保険適用前提で毎月約5,000円から7,000円程度です。保険適用外の場合は、機器のレンタルや購入費用が含まれるため、より高額になる可能性があります。

オンライン睡眠時無呼吸外来

当クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)に対するCPAP治療をオンラインで提供しています。

対応地域と条件

  • 対面でのCPAP導入希望者は、横浜市、川崎市、湘南エリア在住の方に限ります。
  • 他院からの転院も受け付けていますが、現在対応している管理会社はPhilipsのみです。

特徴

  • 初診から再診までオンライン診療が可能で、対面受診は不要です。
  • 治療が安定すれば、3ヶ月ごとにオンライン受診が可能です。

検査方法

  • 自宅に睡眠簡易検査キットを郵送します。
  • 検査を自宅で1晩実施します。
  • 結果は1~2週間後に到着します。

結果説明

  • 検査結果はオンラインで説明します。
  • 循環器専門医がCPAPの適応を検討し、その他生活習慣病に関する相談も受け付けます。

お気軽にご相談ください。

治療の進め方とQ&A

Q: CPAP療法は毎晩使用する必要がありますか?

A: はい、CPAP療法は毎晩使用することが推奨されます。継続的な使用が最も効果的です。

Q: CPAPの圧力に慣れるのが難しいのですが、どうすればいいですか?

A: 初めてCPAPを使用する際に圧力に違和感を感じることは一般的です。次の対策を試してみてください:

  • 圧力を徐々に上げる:医師の指示に従い、圧力を少しずつ調整します。
  • 湿度の調整:CPAP機器には加湿機能が付いている場合があります。加湿を調整することで、快適さを増すことができます。
  • マスクのフィッティングを確認する:適切にフィットしているか確認し、調整が必要な場合は医師に相談してください。

Q: 海外に渡航する際、CPAP機器を持ち運ぶことはできますか?

A: はい、CPAP機器は海外旅行にも持ち運ぶことができます。航空会社によっては機内持ち込みが認められていますので、事前に確認しておくと良いでしょう。多くのCPAP機器は電圧変換に対応しているため、旅行先でも使用可能です。また、税関を通過する際に診断書が必要な場合がありますので、医師に依頼して診断書を作成してもらいましょう。

終わりに

CPAP療法は、睡眠時無呼吸症候群の効果的な治療法として広く利用されています。適切な使用と定期的なフォローアップにより、SASの症状を効果的に管理し、生活の質を向上させることができます。