インフルエンザとは・・・・
感染ルート
直接接触による感染も考えられるが、大部分は患者が咳やくしゃみをした際に放出される小滴中に含まれたウイルスによって感染する。この小滴は直径2μm以下で、ヒトの下部気道にまで達する。 ウイルスは気管支粘膜で増殖し、最初に感染してから2日後にはウイルス増殖はピークに達する。罹患者からのウイルスの排泄は感染後1週間はみられる。以前に感染したウイルスと抗原性が一致したウイルスが侵入してきた場合には、免疫現象が活躍。粘液中に分泌された抗体がウイルスを中和し、感染は成立しない。ウイルスの排出量と症状の強弱の程度には相関が認められる。インフルエンザが流行しているときにカラオケボックスに出入りするのは如何に危険なことかお分かりいただけよう。カラオケマイクにシャウトして、翌日は発熱した経験をお持ちの方々も多いはずだ。
インフルエンザウイルスの 電子顕微鏡写真。大きさは 直径約1万分の1o。表面 には2種類の棘があり、ざ らざらしている。 |
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インフルエンザ ウイルス |
電子顕微鏡写真 |
臨床症状
A型 A型インフルエンザウイルスによる感染は、不顕性感染からウイルス性肺炎によって致死的になるものまで、さまざまなである。典型的な症状は気管気管支炎である。潜伏期間は、短いものでは24時間、長いものでは4〜5日である。頭痛、悪寒、乾性の咳などを伴って突然発症し、続いて高熱、筋肉痛、全身衰弱、食欲不振が起こる。 インフルエンザの症状で最も特徴的なのは発熱で、24時間以内にピークに達する。通常は38〜40℃であるが、しばしば若年者では41℃にまで上昇する。発熱持続期間は平均3日である。発熱に続いて、咽頭痛、声枯れ、咳、痰、鼻汁などの呼吸器症状が出現してくるが、解熱後数日で回復する。 小児が感染した場合、上記の症状に加えて小児特有の症状を示す。体温は大人よりも上昇し、しばしば熱性痙攣を起こす。嘔吐、腹痛などの消化器症状を示す頻度も高い。中耳炎、クループ、筋炎も小児に合併しやすい。
B型、C型 B型インフルエンザウイルスによる症状はA型とほぼ同様であるが、筋炎と消化器症状を起こす確立がはB型で高い。C型インフルエンザウイルスは上気道感染症を散発的に起こすが、重篤な下気道感染を起こすことは少ない。自覚症状に比較して他覚的所見は乏しく、眼球結膜の充血や咽頭発赤を認める程度で、診察上は顕著な変化はない。
63歳 男性 高熱にて初診 (第1病日) |
抗ウイルス剤+抗生物質で治療 (第15病日) |
インフルエンザ感染による肺炎症例 | 左症例の略治癒後のレントゲン像 |
白い雲のような肺炎画像が認められる | まだ浸潤陰影を残すが何とか救命成功! |
インフルエンザの歴史と疫学
インフルエンザの流行が紀元前412年のヒポクラテスの記述からも伝えられている。20世紀には大きな流行は何度となく起こり、その状況は今でも変わりがない。この原因として、インフルエンザウイルスの抗原変異の激しいことが挙げられる。
A型インフルエンザの抗原変異には、連続変異と不連続変異がある。連続変異はHAとNAにおける小さな抗原変異で、毎年のように起こる。一方、不連続変異はHAやNAをコードする分節の置換によって起こる。1933年にインフルエンザウイルスが初めて分離されて以来、3回の大きな不連続変異が起こった。1957年には、それまでのH1N1亜型からH2N2亜型(アジアかぜ)へ、1968年にはH2N2亜型からH3N2亜型(香港かぜ)に置換し、また1977年には再びH1N1亜型(ロシアかぜ)が現れた。
したがって、現在、A型インフルエンザウイルスとしてはH1N1とH3N2の2種類、それにB型の合計3種類のインフルエンザウイルスが流行している。新しい亜型の流行が始まると、多数の患者と死者が発生する。1918年から1919年にかけてのスペインかぜといわれた世界的大流行では、世界中で患者総数が6億人に達し、死者は2000万人から4000万人の間に及んだと考えられている。1957年のアジアかぜ流行の際に、わが国では患者数約100万人、死者約8000人を数えた。また、同じ亜型の流行でも抗原変異が大きいと、流行規模も大きくなる。 わが国では、毎年必ず冬になるとA型インフルエンザウイルスによる流行が起こり、そのピークは12月から3月の間である。B型の流行はA型よりも散発的である。
平成15年度ワクチン製造株が決定された。昨年と同じく、A型はA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/パナマ/2007/99(H3N2)、B型はB/山東/7/97である。不連続変異は予想されておらず、歴史的大流行とはならないと思われる。(平成15年6月末記述)
昨年の暮れに、上記の記載をしたが予想は見事に外れた。不連続変異は生じなかったが、抗インフルエンザ薬の欠品という、考えられない事態が発生したため、小規模の流行に歯止めがかからなかったからだ。ワクチンの製造株予想は確実にヒットしており、当院でワクチン接種をした人のインフルエンザ発症率は1%以下である。(平成15年2月4日追記)
最近のインフルエンザ流行のパターン
1993年と1995年にかなりの規模の流行があった。1992年の暮れから1993年にかけてはA香港型とB型が流行した。1995年は年初にA香港型とB型、年末にはAロシア型が流行し、1年のうちに3種類の型のウイルスが流行するという特徴のある年であった。
1991年の年齢別インフルエンザ罹患率・死亡数
罹患率で特に高いのは5〜14歳の児童生徒であり、死亡数で多いのは乳幼児と65歳以上の高齢者であり、インフルエンザワクチン接種をしておきたい年齢層である。
確定診断
ウイルス分離と血清学的診断を行う。
ウイルス分離には、発病後3日以内の患者のうがい液か咽頭ぬぐい液を使用する。分離されたウイルスは、最近流行したA型、B型の免疫血清で赤血球凝集抑制試験により型を決定する。
血液を採取する血清学的診断では、発病後3日以内の急性期と2週以後の回復期血清を摂取し、抗体価を測定する。急性期と回復期の血清を同時に検査して、4倍以上の抗体価の上昇があればインフルエンザと診断することができる。
インフルエンザ迅速診断キットの操作及び判定方法 |
早期診断のためには、鼻咽腔の擦過標本や分泌液を用い免疫蛍光抗体法や酵素抗体法により、インフルエンザウイルス抗原を証明する方法が実用化されている。この方法は15分以内に結果がわかるので、診断を急ぐ場合には利用価値が高い。またこの方法により、インフルエンザの型の判定も行われるので、適切な薬が選択できるというメリットも有る。ウイルスを検出するために、綿棒を鼻腔に差し込みます。少しばかり痛みますが、ご辛抱ください。また、この検査は70%程度しかインフルエンザ感染症であることを正しく診断できませんので、たとえ検査結果が陰性でも、医師が臨床的にインフルエンザと診断したら、素直にインフルエンザの処方箋を受け入れる方がベターです。
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陽性:コントロールライン、テストラインの両方が出現(陽性) |
(薄くても、テストラインが確認できれば陽性!) |
陰性:コントロールラインのみが出現(陰性) |
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予防
乳幼児やお年寄り、糖尿病などがある人は抵抗カが弱く、重症化しやすい。特に肺や心臓に病気があると、感染が命にかかわることも多く、予防が大切です。
予防ワクチン接種 現在、積極的な予防法としてワクチン接種が行われている。ワクチンは、インフルエンザウイルスを孵化鶏卵に接種して増殖させて採取し、精製・不活化したものである。WHOの推奨を参考にしながら、わが国で分離された株の情報をもとに、毎年春にその年のワクチンに含まれるべき株を定めている。このワクチンの感染防御効果は強くないが、重症化を阻止する効果は十分認められる。したがって、USAでは免疫力低下ある人や65歳以上の高齢者に対し積極的にこのワクチンが接種されている。当院ではワクチン接種を毎年行っています。お近くにお住まいの方は、どうぞご利用ください。
ワクチン接種 | 抗体ができる | ウイルスの侵入と 感染の防止 |
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インフルエンザウイルスが ヒトの細胞に接着する棘の 部分だけを作成し、 これをワクチンとして ヒトに投与する。 |
ワクチンの投与は インフルエンザウイルス の侵入と 免疫システムが 誤解釈し、抗体を作る。 |
インフルエンザウイルスが 侵入してくると 抗体が棘をブロックして ヒト細胞への侵入を阻止し、 感染を予防する。 |
特にワクチンを接種したほうがよい人 | ワクチン接種のタイミング | ワクチン接種上の注意 |
乳幼児 |
インフルエンザワクチンは、接種してから効果が現れるまで、約2週間かかります。また、接種したワクチンの効果が十分に持続するのは、約5か月間です。 インフルエンザの予防には、流行前に、毎年ワクチンを接種する必要があります。インフルエンザは12月ごろに流行し始め、翌年の3月ごろまで続きます。流行が始まる前の10月から12月に、ワクチンを接種しておきましょう。 |
インフルエンザワクチンは、接種後に副作用が起こることはほとんどありません。ただし、発熱しているときは接種を避けるようにしましょう。また、ワクチンは鶏卵を使ってつくられるので、強い卵アレルギーがある人は、まれにアレルギー反応が起こることがあります。事前に医師に相談するようにしてください。 |
特に抵抗力の弱い「乳幼児、お年寄り、糖尿病や腎臓病がある人、肺や心臓の病気がある人」は、ワクチン接種をお勧めします。また、これらの人への感染を、周囲の人が防ぐことも大切です。家族はもちろん、高齢者施設や保育園、幼稚園などで働く人も、ワクチンの接種を受けるようにしてください。 特に、医師、看護師をはじめとして、医療機関に勤務する人は全員、患者さんへの感染防止のために、ワクチン接種による徹底したインフルエンザの予防が必要です。 私も毎年2回接種しています。 医師になって20有余年、1度もインフルエンザに罹患したことがない事だけは自慢できます。 単に馬鹿は風邪をひかないだけかもしれません。 |
ワクチンは、通常−年に1−2回接種します。 もともと免疫が十分に備わっていない乳幼児は、 2週問ほど問隔をあけて2回接種します。 なお、「65歳以上の人」と「60歳以上で肺や心臓などに病気がある人」には、費用の一部を国と地方自治体が負担する制度があります。事前に、市区町村に問い合わせてみてください。 この時期に接種できなかったとしても、早めに接種しておけば予防効果はあります。ワクチンの接種は、内科ならほぼどこでも受けることができます。 |
インフルエンザワクチン最新情報
インフルエンザウイルスは主に「A香港型、Aソ連型、B型」の3種類が流行します。インフルエンザワクチンは、この3つの型すべてに対応する混合ワクチンです。 ただし、この3つの型は、棘の形によって、さらに細かい型に分かれます。この細かい型のことを「サブタイプ」といい、サブタイプによって有効なワクチンは異なります。毎年同じサブタイプのインフルエンザが流行するとは限らないので、毎年、ある程度流行しそうなサブタイプを予想したワクチンがつくられています。この冬は、昨シーズンと同じ サプタイプの流行が予想されているため、昨年と同じワクチンが使用されます。 今年はSARSのことも考慮して、昨年よりも多めのワクチンが準備されることになっています。 |
インフルエンザHAワクチン
influenza HA vaccine
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インフルエンザHAワクチン(化血研-藤沢,北里-第一,デンカ生研)
ビケンHA(阪大微研-田辺)
注:10mL/V
0.5mL 皮下注 1回又は約1〜4週間の間隔をおいて2回注射
[児] 1歳未満:0.1mL,1〜6歳未満:0.2mL,6〜13歳未満:0.3mL 2回注射
*接種間隔:2回接種を行う場合,免疫効果を考慮すると4週間おくことが望ましい
*生ワクチンの接種を受けた者は,通常,4週間以上,また,他の不活化ワクチンの接種を受けた者は,通常,1週間以上経過した後に本剤を接種
【禁忌】 〈接種不適当者〉 1)明らかな発熱を呈している者 2)重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者 3)本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者 4)上記に掲げる者のほか,予防接種を行うことが不適当な状態にある者
【適応】 インフルエンザの予防
【費用負担等】 地方交付税〇 保健所対応:年齢制限外は自費 薬価基準適用外
発症を抑える効果(健康な成人の場合) | 重症化を防ぐ効果(65歳以上の老人) |
ワクチンを1回接種すれば70%、 2回接種すれば90% 発症を予防できると 私は考えています。 |
ワクチンを接種さえしていれば、 発症、入院、死亡の確立を こんなに減少させることが可能です。 (1998−1999年A香港型、出口安祐ら) |
治療
対症療法 一般的には特異的な治療法はなく、対症療法を行う。安静を保ち、室内の温度・湿度を高くすることが重要である。発熱・頭痛には、アスピリン、アミノピリンなどの解熱薬や鎮咳薬を用いる。細菌の二次感染があれば抗生物質を用いる。
原因療法
抗ウイルス薬
タミフル、リレンザと言う抗ウイルス薬の出現によりインフルエンザの原因治療は革命的に変わった。発熱後24時間以内にこれらの薬を投与すると、臨床症状が半日で消えてしまう症例に今年は多く出くわした。38℃以上の発熱でインフルエンザだと思ったら、24時間以内に医師にに相談する。これが21世紀のインフルエンザ治療の常識となった。
治療の詳細
治療はA型の場合早期に比較的安価なアマンタジン(シンメトリル)を使うと軽快します。ただし、十分副作用には厳重な注意が必要です。一部で小児に使用されるケースがあるやに聞こえてきますが、そこはあやしい問題が含まれていると思います。A型、 B型の両者に抗力があるリレンザ、タミフルも承認されています。この二つは比較的高価です。いずれも
インフルエンザを早期発見し、抗ウイルス薬の早期投与で劇的に症状は改善します。今年(2003年)の問題は供給体制ですね。早く安定供給して欲しいと心から願っています。
二次感染(細菌性肺炎・気管支炎)の予防目的にて抗生物質を処方す
ることもあります。
小児では鎮痛解熱剤の投与には慎重になるべきで、このことはご両親がよく理解しておく必要があります。子供が発熱し、38.5度以上でぐったりとして辛そうな時には、親として我が子に解熱剤を使用したくなりますね。こういう場合に、現在では小児にも比較的に安全なアセトアミノフェンを使います。副作用を未然に防ぐため、続けて使用する場合には6時間以上の投薬間隔を空けるようにしてください。
昔、子供の鎮痛解熱によく使われたポンタールやボルタレンには、インフルエンザ脳炎・脳症を誘発するの危険性があります。
15歳以下のインフルエンザの患児には使用禁止です。このふたつの薬は同じ成分のものがたくさん出回っています。手持ちの解熱鎮痛薬が何なのか、よく確かめもしないで使うのはやめましょう。
インフルエンザの諸症状が全身を消耗させていると判断すれば、鎮咳剤などの対症療法に加えて、点滴などで脱水補正が必要なこともあります。
先に述べたように、リレンザとタミフルという薬が2001年2月2日から保健適応になりました。
A型B型両方に初期に効果があります。2002年には子供用ドライシロップも出ています。ことしは昨年のような生産量が需要に追いつかないという失敗を二度と繰り返さないでほしいです(2003年11月5日現在)。
2002年からタミフルが幼児(1歳児以上)にもドライシロップとして 使えるようになりました。(1歳未満は安全性がまだ確立していません)
1、タミフルはインフルエンザウイルス感染症の初期、発熱から2日以内の投与で有効です。
2、タミフルはA型またはB型インフルエンザウイルス感染以外のウイルスや細菌感染には
効果がありません。
3、タミフルは1錠オセルタミビルとして75ミリです。大人、または37.5キロ以上
体重のある小児には1回75ミリ(1錠)を1日2回、通常5日間処方します。
4、幼児には通常オセルタミビルとして1回2mg/kgをドライシロップとして1日2回
5日間処方します。
5、妊婦は治療の有効性が危険性を上回る場合投与し、授乳婦の場合は授乳を避けさせます。
2003年12月13日
当院のインフルエンザワクチンのストックが底をついた。予約申し込み分20人以外はワクチンがない。一部の病院では老人接種用に600人分ものストックをとり、1月末まで接種するというニュースをテレビで拝見した。現在ワクチン不足が騒がれているのに、ずいぶん悠長な話である。小児や受験生にぜひ転用させていただきたいものだ。年度末に医療機関で余ったワクチンは返品可能だからといって、消化不足をおこすほど注文を出す病院の姿勢はいかがなものかと思うのは、私だけではないだろう。
厚生労働省作成参考資料もぜひご覧ください。
PDFファイルを見るためには、アクロバットリーダーというソフトが必要です。
アクロバットリーダーは無料で配布されています。
(右のアイコンをクリックしてください。)
インフルエンザQ & A(一般の方々のために) | PDF 105KB |
インフルエンザQ & A(医療従事者の方々のために) | PDF 136KB |
インフルエンザ予防ポスター(厚生労働省有) | PDF 1,027KB |
インフルエンザ予防ポスター(厚生労働省無) | PDF 1,023KB |
インフルエンザ施設内感染予防の手引き | PDF 87KB |
厚生労働省ホームページ:http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1112-1.html
国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/index-j.html