気管支喘息


定義 
 1993年の日本アレルギー学会のアレルギー疾患治療ガイドラインでは「広範かつ種々の程度の気道閉塞と気道炎症により特徴付けられる。気道の閉塞は軽度のものから致死的な高度のものまで存在し、自然にまた治療により可逆的である。気道炎症はリンパ球、肥満細胞、好酸球など多くの炎症細胞が関与し、気道粘膜上皮の損傷を示し、種々の刺激に対する気道の反応性の亢進を伴う」と定義されている。夜中にゼーゼーして眼が覚め、座ったままで朝を迎える。こんな症状が慢性化すると、人生そんなものだと諦めている人もいる。診断名はすでに知っているのに、きちんとした治療を受けてないから管理できていない。そんな人がいたら、一刻も早く呼吸器アレルギーの専門家を訪ねてみよう。この病気は、必ずよくなる。

 気道炎症の存在が慢性に持続することが明らかにされ、治療(ステロイド吸入薬)もその制御を目的とするように変化してきた。 分類としては、原因アレルゲンが明らかなアトピー型(外因型)と不明な非アトピー型(内因型、感染型)に分類し、治療方法を選択しよう。

また、運動により誘発される運動誘発性喘息(小児に多い)、解熱鎮痛剤により誘発されるアスピリン喘息という病型が存在する。
アスピリン喘息は成人難治性喘息に多く、成人喘息のうち約10%に存在する。致死的な喘息となりうるアスピリン喘息には注意が必要である。医療機関は成人喘息患者さんに、不用意に解熱鎮痛剤を投与されないよう注意が必要。医療過誤が問われた場合、医療機関の完敗となります。

頻度と疫学
頻度は約3〜5%。1986年藤枝市で行った調査では約3.14%であり、近年増加傾向をたどっている。この増加原因は大気汚染の問題、過栄養、食品添加物の問題がいわれている。疫学的に大気汚染が問題になった四日市では喘息の有病率の増加が報告されている。しかし嘆くこと無かれ、オリンピック選手にも同程度の喘息有病率があるので、きちんと管理すれば金メダルも狙える疾病である。人生のハンディキャップと考える必要はまったく無いのだ。

病態生理

即時型反応
ダニなどのアレルゲンを吸入すると、30分以内に引き起こされる気道の収縮反応(いわゆる即時型反応)が誘発される。肥満細胞および好塩基球の細胞膜に存在するIgE受容体FcεRIにはIgE抗体が結合している。このIgE抗体が特異的アレルゲンと結合すると、肥満細胞および好塩基球の細胞内に刺激が伝わり脱顆粒が起こる。このあたりのメカニズムは、アレルギー性疾患に共通であり、アレルギー性鼻炎のページも参考にしてほしい。とにかく脱顆粒現象により、既に顆粒中に存在する既成の化学伝達物質ヒスタミン、セロトニンなどが放出され気管支平滑筋の収縮、血管透過性の亢進による浮腫、分泌亢進が起こる。そして新たに合成される化学伝達物質として、ロイコトリエン、トロンボキサンが平滑筋の収縮に働く。

遅発型反応
新たなアレルゲンの吸入がないのに、6〜8時間後に2度目の気道の収縮反応が起こる。これを、遅発型反応と呼ぶ。この遅発反応時には、気道局所に好酸球、リンパ球が浸潤し、気道炎症が起こっている。アレルギーの二日酔状態だ。

後遅発型反応
さらに、好酸球の放出する顆粒により気道上皮が障害され傷つき、気道の過敏性の亢進が誘発され後遅発型反応が起こる。好酸球はmajor basic protein(MBP)、eosinophil cationic protein(ECP)、eosinophil derived neorotoxin(EDN)、eosinophil peroxidase(EPO)などを顆粒中に有し、これらが気道上皮を傷害する。気道上皮細胞が傷害され気管支粘膜バリアーとしての機能の低下、神経軸策反射に伴う気道収縮ペプチド(ニューロペプチドA、サブスタンスPなど)の遊離、上皮由来の弛緩物質(epithelium derived relaxing factor;EpDRF)産生の低下、気管支収縮物質不活化酵素の減少(ヒスタミンに対するヒスタミンメチルトランスフェラーゼ、タキキニンに対するニューロエンドペプチターゼ)などの変化が起こり気道過敏性が発現する。

このような3段階の反応をおこすケースは一般的に重症である。各々の気道炎症段階で、各々炎症を止める薬剤が開発されている。これらの組み合わせにより、より現代的な薬物を用いて対症療法が可能である。この3段階のステップの最初、つまり即時型反応を止める努力は大変大事なのに、忘れられているきらいがある。アトピー型喘息では、アレルゲン暴露をできるだけ避けることと、またアレルゲンに対して減感作療法を行うことが根治療法として重要である。

臨床的特徴 

発作性の呼吸困難を特徴とする。喘鳴はヒューヒュー、ゼィーゼィーという音で特徴的である。特に呼気の延長が認められ、聴診上pipingといわれる連続性ラ音(ヒュー音)を聴取する。中等症発作では起坐呼吸、大発作ではチアノーゼを認める。

検査所見 

血液検査
末梢血好酸球数は軽度〜中等度の上昇を認めるが、正常の場合もある。アトピー性、非アトピー性に関わらず、喀痰中の好酸球数の上昇を認める。また、喀痰中に上皮細胞の塊であるCreola bodyや好酸球の変成物質であるシャルコライデン結晶が存在することも特徴的である。

アレルギー検査
アトピー型では血清中総IgE値の上昇、特異的IgE抗体の上昇を認める。特異IgE抗体を検出する方法に血清を用いたRAST(radioallergosorbent test)のほか皮膚テスト、ヒスタミン遊離試験がある。 

皮内反応
皮膚テストは「掻爬」によりアレルゲンを表皮に投与するスクラッチあるいはプリックテストと、皮内に投与する皮内テストがあり、安全性で前者が優るが、感度は100倍後者が優れている。いずれも表皮内に存在する肥満細胞がアレルゲンで活性化され、化学伝達物質を遊離するのを検出するもので、15分後の皮膚の発赤腫脹を計測する。皮膚テストの感度はRASTより高く、多種類のアレルゲンを同時にスクリーニングすることが可能である。

ヒスタミン遊離試験は血中の末梢血の好塩基球を含む白血球成分に、試験管内でアレルゲンを投与し、活性化するかを上清中のヒスタミン遊離量で検出するもので、特異性の高い検査である。

呼吸機能検査
1秒量(FEV1.0)、1秒率(FEV1.0%)の低下を示す。FEV1.0%が70%以下であり、さらに気管支拡張薬吸入により、一秒率が20%以上増加すれば、可逆性の指標となり気管支喘息の可能性が高い。ピークフロー値(PEFR)とは最大吸気位から最大努力小出を行う際に得られる最大呼気速度のことである。患者の呼出努力に依存するが、ピークフローメーターにより家庭で簡易に測定できるため、在宅簡易呼吸機能モニターとして用いられる。ピークフローメーターで得た数値を喘息日記に書くよう指導してくれる先生なら、それは呼吸器の専門医である。

気道過敏性試験(アストグラフ)
アセチルコリンやメサコリン、あるいはヒスタミンを低濃度から2分間吸入させ、1秒率が20%以上低下する最低濃度を測定する。正常人および他呼吸器疾患患者では20000μg/mlであるのに比し、喘息患者では100分の1から10000分の1低い濃度を示す。

吸入誘発試験
原因アレルゲンを皮内反応閾値の1000倍の低濃度から順次濃度を上げて2分間ずつ吸入させ、1秒率が20%低下すれば陽性と判断する。実際にそのアレルゲンによって気管支喘息が起こっていることを証明するものであるが、強度の発作を誘発する危険もあり、慎重に施行する必要がある。 アスピリン喘息の場合は確定診断は負荷試験であるが、吸入負荷試験が安全性の面から薦められている。一方、運動誘発性喘息の場合には運動負荷テストが行われる。  

治療、管理と予防 

アレルゲンが同定てきた場合には、まず、そのアレルゲンの回避が一番の予防法である。アレルゲンとして最も多いダニ、ハウスダストについては入念な清掃を勧める。ペットに由来する動物アレルゲンとしてネコ、イヌ、ハムスターなどが多く、いずれも飼育を中止してアレルゲンの暴露を回避することが必須である。ダニのアレルギーが原因なら減感作療法により気管支の過敏性を抑え、発作をおきなくする体質改善が期待できる。吸入ステロイド(商品名:ベコタイド・フルタイド・アルデシンなど)は喘息治療の根幹となったが、未だにこの治療方法の恩恵にあずかってない患者さんが我が国にたくさんいるという。未だに気管支拡張剤のみで治療をうけているようなら、それは間違いではないが時代遅れだ。

吸入ステロイドはステロイドと名前はついているものの、ステロイドとしての全身的副作用は心配ない。吸入ステロイド剤は気管支粘膜で炎症を抑える働きをしたのち、血管に吸収され血液と触れた時点でステロイドが分解されるので全身的作用を失うのだ。また直接呼吸器に吸入されるので、当然全身的副作用はおきるはずも無い。すぐれたDDS(drug delivery system)と薬剤の分解特性のよさが上手に臨床応用された点では評価されるべきものだ。吸入ステロイド薬が軽症の気管支喘息から使用されるようになって喘息は外来治療が主たる治療の場となった。サイトカイン産生抑制、好酸球のアポトーシス誘導を介して治療効果を挙げている。全身に吸収されないので内服ステロイド薬に認められる糖尿病、高血圧、骨粗鬆症などの副作用が認められない。

経過と予後

一般的に気管支拡張薬に反応性はよい。しかし、発作の持続した重積状態は、喘息死の危険もある。喘息死は人口10万に対し約5人の割合で起こっている。この原因としてアスピリン喘息など、不適切な薬物治療がかなり存在するものと推定されている。喘息患者さんを扱う医師は鎮痛解熱剤の使用にもっと慎重になってほしい。喘息患者さんにも安心して使用できる解熱鎮痛剤は存在する。専門家にぜひ相談してほしい。

喘息大発作の末、喀痰排出困難による窒息死が最も多く、またβ刺激薬の使用過多による心刺激作用が原因での死亡も存在する。発作を繰り返すこと自体が気道過敏性を亢進させ、次の喘息発作を誘発しやすくなる。だから、喘息は発作時のみばかりでなく抗炎症治療(吸入ステロイド)で発作を予防することが治療の主体になっている。減感作療法は発作を根治させる可能性がある重要な治療方法だ。

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