アトピー性皮膚炎



 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)という病名は1933年にMarion Sulzbergerらによって使われるようになったもので、比較的新しい病気です。Coca&Cookeは、喘息と枯草熱(アレルギー性鼻炎の一種)が同一人、同一家系内で発症することが多く、遺伝的要素の濃厚なことを指摘して、1923年に「奇妙な」を意味するギリシャ語のa topicaからとったatopyと呼ぶことを提唱しました。 SulzbergerらがADの特徴として挙げた症状は次のように要約されます。 
(1)アトピーの家族歴があること。 
(2)乳児湿疹があること。 
(3)肘窩、膝窩、前頚部、胸、顔面、眼瞼に病変が局在する。 
(4)皮膚に灰色あるいは褐色の変化がみられる。 
(5)接触性皮膚炎と異なり、臨床的・組織学的に小水疱がみられない。 
(6)血管運動神経の不安定性あるいは易刺激性。 
(7)多くの接触抗原のパッチテストが陰性であること。 
(8)多くの環境蛋白抗原、食物蛋白抗原のスクラッチテストあるいは皮内反応が陽性であること。 
(9)患者血清中にレアギン(IgE)が存在すること。

アトピー性皮膚炎の診断基準(HanifinとRajkaの診断基準)

以下の大項目3つ以上をもち、小項目3つ以上をもつものをアトピー性皮膚炎と診断する。 

大項目
1そう痒(かゆみ)
2特徴的皮膚症状とその特徴的分布
3慢性あるいは慢性に出没をくり返す皮膚炎
4本人あるいは家族にアトピー疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎)の併発

小項目
1乾皮症
2魚鱗癬・手掌の多数のシワ・毛孔性角化
3即時型皮膚反応陽性
4血清IgE増加
5若年齢層の発症
6皮膚感染症にかかりやすい(細胞性免疫力低下)
7手や足に湿疹が起きやすい
8乳頭の湿疹
9口唇炎
10再発性の結膜炎
11下眼瞼のシワ
12円錐角膜
13白内障
14眼瞼の色素沈着
15顔面蒼白・顔面紅斑
16単純性粃糠疹(はたけ)
17前頚部のシワ
18発汗時のかゆみ
19ウール・有機溶媒接触によるかゆみ
20毛孔性角化
21食物不耐性
22環境因子、心理的因子による症状の変化
23白色皮膚描記症

検査所見 
ADにはその病勢を反映するとされているいくつかの検査値異常がある。また、アレルゲンの検索については、皮膚炎の増悪因子をつきとめるための参考とし、また症状を把握し、診断上の補助とするという意味からもできるだけ行われることが望ましい。

血液検査
1.末梢血好酸球数 ADでは末梢血中の好酸球数と皮膚炎の症状が比較的よく相関するとされている。 
2.血清ECP値 ADでは末梢血好酸球数は増加し、また活性化されていることが示されている。活性化された好酸球は採血後の過程で脱顆粒するため、血清中のECP(eosinophil cationic protein)として測定される。この血清ECP値はADの皮膚症状と相関することがいわれている。また、血清中のsoluble IL-2 receptorについても同様のことがいえる。 
3.LDH値 LDH値もADでは皮膚症状と相関することが多い。LDH分画では4型および5型の上昇をみる。 
4.血清総IgE値とアレルゲン特異的IgE値 血清総IgE値はADの70〜80%で高値を示すことが明らかとなっている。また、アレルゲン特異的IgE値を測定することも重要で、そのためにRAST,CAP-RAST,Ala-STAT,MAST法などが用いられている。一般的にはコナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ハウスダスト、カンジダ、マラセチア、スギ、コメ、ムギなどがよく測定される。乳幼児では食物アレルゲン、幼小児では食物アレルゲンと環境アレルゲンが測定される。 

皮膚反応 
即時型反応をみる目的で、プリック試験(スクラッチ試験)や皮内反応が行われる。アレルゲンの検索が目的で、これらはアレルゲン特異的IgEよりも鋭敏であるとされている。パッチテストも行われる。 

食物除去試験、食物負荷試験 
食物がADの皮膚症状に関与していると考えられる場合に行う。食物の関与するADは乳幼児に多くみられるため、成長との関係を考慮する必要がある。特に除去試験は慎重でなければならない。また、両親に対しての影響もあるので、その点も十分考慮する必要がある。  

治療、管理と予防 

3つの側面から考えよう。

(1)増悪因子の除去
増悪因子の除去については、詳細な問診、アレルゲン特異的IgE値、皮膚反応の成績などを参考にして対応する。石鹸、シャンプーなどを用いて皮膚を清潔に保つことはいうまでもないことである。

(2)乾燥性皮膚に対しての治療
乾燥性の皮膚に対しては、ワセリンやスキンケアクリームなどを用いて皮脂性分を補給するとともに、尿素製剤やヘパリン様物質などの保湿剤を用いて対応する。

3)炎症の抑制
炎症の抑制の治療としては、ステロイド外用薬が第1選択となる。使用に際しては、ステロイドの効果のランク、使用する身体の部位からの吸収度、ステロイド外用薬の剤型についての基本的な知識をもつことが重要。また、ステロイド外用薬は皮膚症状の変化を観察し、きめ細かく変更することが大切。
4)免疫抑制剤
免疫抑制薬であるシクロスポリン(CYA)やFK506(タクロリムス)が有効である。とくにプロトピック軟膏は顔面の発疹に使用しやすく、ステロイド皮膚炎の合併がおきない。近年開発された薬剤の中でも秀逸である。免疫抑制薬であるので、副作用に注意する必要があることはいうまでもないが、きちんと診察を受け定期的検査を実施するなら安全性にも期待してよい。

ADの治療中には、伝染性膿痂疹、レンサ球菌感染症などの細菌感染症やカポジ水痘様発疹症、伝染性軟属腫などのウイルス感染症、さらに体部白癬などの真菌症の合併をみることがしばしばあるので注意が必要。 また、ADでは眼の合併症に注意する必要がある。白内障、網膜剥離、円錐角膜、虹彩毛様体炎などがあげられる。

由々しき治療の混乱:ステロイド恐怖症はマスコミの犯罪ともいえる。

成人ADの難治例の増加と、最近のステロイド外用薬に対する患者の拒否反応の大きさとが相俟って、治療に困難を感じることが多い。ステロイド外用薬に対する異常な反応を是正することも大切である。アトピービジネスが推薦する健康食品のほうがよほどの無駄であり、かつ危険性が伴う。きちんとした説明をしないでくすりを投与する医師の存在がなくならない限り、この問題は続くだろう。喘息やアレルギー性鼻炎を合併しているケースでは減感作療法も有力な治療方法になりうる。

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