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東京新聞:平成14年2月8日朝刊より



花粉症 根治療法を探る

時間かけ体質改善

成功すれば画期的

 今年もスギ花粉が飛散する時期が近づいてきた。花粉症に悩む日本人は五人に一人で、今や国民病。鼻水や目のかゆみから逃れたいと抗ヒスタミン薬や、副作用が強いステロイド薬に頼る人も少なくない。だが、薬物治療はしょせん対症療法。最近は、「減感作(げんかんさ)療法」と呼ばれる体質改善療法や、昔の人のように寄生虫に感染した体内状態を人為的につくり、花粉症を抑えようという遺伝子研究に、関心が集まっている。(藤 英樹)

■減感作療法

 「私自身、減感作療法で花粉症を治しました。面倒で根気がいるのはだれよりも知っていますが、今はこれしか根治する方法はありません」と語るのは、この療法に実績がある「下永谷内科・皮フ科」(横浜市港南区)の山本正人院長。

 減感作療法は一言でいえば「毒をもって毒を制する」(山本院長)やり方だ。

 スギ花粉のアレルゲンエキスを週一、二回、注射する。最初は非常に薄い濃度のものを少量。少しずつ増量し、次に濃度を十倍にし、同じように増量する。

 体をアレルゲンエキスに慣らしていくわけだ。

 「ある段階まで治療が進むと、患者さんの体内にスギ花粉をブロックする抗体(IgG4)ができます。これが鼻粘膜を刺激するヒスタミンなどの化学物質を放出させる肥満細胞の破裂を防ぐのです。薬物治療が心配な出産予定の女性などに勧めたい」と同院長。

 だが、治療には約三年もかかる。保険で一回の治療費は千円程度だが、気の長い治療に途中で挫折してしまう患者や、反応が強くて思うようにエキスの増量が進まない患者もいる。

 なぜ、これほど長期になるのか。山本院長によれば「遺伝的な素因も絡むアレルギー体質は個人差が大きく、治療スケジュールは慎重を期さねばなりません。不用意に増量すれば、じんましんやぜん息などの副作用、最悪の場合、『アナフィラキシー反応』と呼ばれる、呼吸困難やショック死を招くこともある」。

 薬物治療のほうがいいか、という見方も出そうだが「ステロイド薬がいらなくなり、QOL(生活の質)は高まります。年間を通じて毎日平均二十人の患者さんが減感作療法を受けにうちに来ます。確実に増えている」と山本院長。

 同院は、勤め人らが気軽に利用できるよう日曜も診療している。

■遺伝子研究

 一方、東京医科歯科大の藤田紘一郎教授は「寄生虫が花粉症を抑える」というユニークな説を唱える。

 三十五年前、インドネシアを訪れ、不衛生な川で水浴びする子どもたちにアトピー性皮膚炎や花粉症がほとんど見られないのに驚かされた。ちょうど同じころ、日本ではアレルギー性疾患が増え始めており、国民の寄生虫感染率が一割を切った時期でもあったという。「寄生虫に感染することが、アレルギー性疾患を抑えているのではないか」と考え、研究してきた。

 同教授によると、そのメカニズムはこうだ。

 「寄生虫に感染すると、体内に抗体(非特異的IgE)ができる。これは花粉症の原因となる、ヒスタミンなどを含んだ肥満細胞にくっつくが、スギ花粉とは結びつかない性質のため、同細胞が破裂せず、花粉症は起きない」。さらに藤田教授は「寄生虫の分泌液に含まれる糖タンパクが、アレルギー性疾患を抑えるリンパ球(Th2)の機能を高めている」と説く。

 それを確かめるため、同教授は遺伝子工学の技術を使って、この糖タンパクを人為的につくり、ラットに注射した。確かにこのリンパ球の機能は高まった。ところが同時に、がんの発生などを抑えている別のリンパ球(Th1)の機能を弱めてしまったという。

 藤田教授は「両方のリンパ球の機能を高められれば、画期的な花粉症根治薬ができるはず」とみて、今も研究を続けている。

 ところで、最近の花粉症患者激増の原因として、地球温暖化や森林荒廃、大気汚染、ストレス過多などがあるといわれる。だが山本院長と藤田教授は口をそろえて強調する。

 「衛生管理の行き届いた清潔すぎる社会が、スギ花粉に敏感に反応する人を増やしているのです」


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